私だけのプレイリスト

お気に入りの曲を載せています。

2024-08-01から1ヶ月間の記事一覧

エクリプスリアルム(69)

有希はしばらく、その文字を見つめていた。 なぜ、このようなものが私の部屋のポストに入っているのか。誰がこの封筒を、わざわざこの場所までやってきてポストに投函したのか。 目の前の現実を、自分の中でうまく把握することが出来ない。そのままポストの…

エクリプスリアルム(68)

有希はその夜、どのように家に帰ったのかも憶えていなかった。 警察署を出てタクシーに乗り込んでからの記憶が飛び飛びになっている。気がつくと、真っ暗な自分の部屋の中で、デスクの前の椅子に座っていた。 奈緒が死んだ……。 だけど、私は生きている……。 …

エクリプスリアルム(67)

暫くの間、静寂が三人を包んでいた。 有希の背後で、藤田が立ち上がる気配を感じる。藤田は有希と奈緒にゆっくりと近付くと、すぐにポケットからスマホを取り出してどこかに電話を掛けた。 「あの……。けが人がいて……。血がすごい流れていて……。救急です……。…

エクリプスリアルム(66)

「山下さん!」 暗闇の中で突然、藤田の声が聞こえた。 私はもうすぐ死を迎えるのだろうか。だから、居もしない藤田の声が幻聴として聞こえてきたのだろうか。そんな考えが有希の頭の中をよぎる。 「山下さん!」 だけど次に聞こえたその声は、より現実的な…

エクリプスリアルム(65)

「離して!」 奈緒は一歩後ろに下がり、肩に置かれた有希の手を無理やり引き剥がす。 「そもそもあなたが送ってきたのだから、あなただってあの動画を見たんでしょ」 「信じてもらえないかもしれないけど、あの画面を見る人によって見える動画が違うの。だか…

エクリプスリアルム(64)

「大学四年の就職活動のときも、そうだった……」 奈緒の口調はひどく冷静で、逆にその冷静さの中に、決して揺らぐことのない憎悪が隠れているかのようだった。 「美咲は難なく、第一志望の国内大手商社である東洋トレーディングの内定を手にし、そして有希も…

エクリプスリアルム(63)

10 有希の前に立っていたのは、奈緒だった。 男性用の短髪のカツラを被り、顎には付け髭も付けている。 その前髪の隙間から、氷のように冷たく、ナイフのように鋭く、そして人形の目のように感情を失った目で、有希のことを見ていた。 「どうして……」 有希…

エクリプスリアルム(62)

藤田が自分の右手に巻いている腕時計を見る。有希もその動きに釣られるようにしてバッグからスマホを取り出すと、スマホ画面には16時15分と表示されていた。 もう自分が殺される時間まで一時間もない。タイムリミットは確実に近づいてきており、それに合…

エクリプスリアルム(61)

ちょうどいい場所はないかと、藤田がそれらの建物に歩み寄る。そして建物やその周りを入念に調べていった。有希はそのような藤田の様子をただ黙って見ていた。やはり現場近くの二つの建物には身を隠すのに最適な場所が見つからないようで、藤田の表情は冴え…

エクリプスリアルム(60)

今日の17時13分に有希が殺されることになる東京都A区の街角は、A駅から歩いて20分くらいの距離にあった。有希自身はA駅で下車するのは初めてだったが、その街角の場所は地図アプリに入力してある。A駅に向かう電車の中でも、その地図アプリを開いて現…

エクリプスリアルム(59)

ドリップコーヒーをカップに入れ終えると、次にトースターに食パンを入れた。 冷蔵庫からバターと蜂蜜を取り出してテーブルに並べているとトースターがチンと鳴り、パンが焼けたことを有希に知らせてくれる。焼けたパンを皿に乗せ、そしてパンの上にバターと…