創作ノート

短編小説を書いています。

2024-02-01から1ヶ月間の記事一覧

閉じ込められた部屋(12)

真尋の実家は埼玉県S市にあった。 大学生になって一人暮らしをするまではずっとその家で暮らしていた。家といっても小さな部屋が二つあるだけの賃貸アパートで、その家で母とそれこそ膝を寄せ合わせて、息を潜めるようにして暮らしていた。 その日、高校の午…

閉じ込められた部屋(11)

それは、真尋が十七歳、高校二年生の時のことだった。 真尋は家から電車で30分ほど行ったところにある、県立高校に通っていた。 母子家庭であった真尋の家はそれほど裕福ではなかったけれど、それでも母は毎日一生懸命に働き、そのおかげもあって高校に通…

閉じ込められた部屋(10)

真尋は久しぶりに、自分の幼い頃の記憶を思い出していた。 部屋の壁にもたれかかるようにして座り、殺風景の部屋をぼんやりと見つめる。 そうだ、あの日担任から作文を返してもらって、純粋に担任の言葉を信じた私は、その作文を母に渡したのだ。いつものよ…

閉じ込められた部屋(9)

ある日、小学校の国語の授業で、自分の親をテーマに作文に書くという課題が課されたことがあった。 両親が揃っている生徒は、父親と母親、どちらかを選んで作文を書くのだが、真尋のようなシングルマザーの場合は自分の母親をテーマに選ぶしかなかった。 真…

閉じ込められた部屋(8)

2 真尋の母親は“佐藤美和”という名前だった。 真尋は母子家庭だった。 自分の父親がいつから家にいなかったのか。物心ついた時には父親という存在はこの家の中にはいなかったし、幼い頃の真尋もそれを不自然なものとも感じなかった。母は色々な仕事を掛け持…

閉じ込められた部屋(7)

真尋は再び、絵の中の奇妙な建物に視線を戻した。 窓枠の中の少女。そしてドアから出ていく女性。少女は感情を失った死人のような顔でその女性を見下ろしている。 この絵は何を意味しているのだろうか。必死になって考えてみるのだけど、何も思いつかない。…

閉じ込められた部屋(6)

壁に掛けられた奇妙な絵。 一メートル四方くらいの、この小さな部屋には不釣り合いな大きな絵だった。閉じ込められた部屋という閉鎖空間。その空間をさらに重苦しく、そして息苦しいものにしている。 真尋は顔を絵に近づけた。そして細部を観察していく。 そ…

閉じ込められた部屋(5)

真尋はドアに耳をつける。 ドアの向こう側から、小さな音でもいいので何かしらの物音がしないかと聞き耳を立てる。だけど、そのドアを介してどんな音も聞こえては来なかった。ここまで無音だということは、かなりの防音対応が施されているのかもしれない。外…

閉じ込められた部屋(4)

他の可能性・・・。 例えば、真尋の記憶にある“昨日”、親友の真由美と一緒に大学から帰ってきた“昨日”が、実は昨日のことではないということはないのか。 自分の記憶にある“昨日”と今との間には一年以上の時間の隔たりがあって、自分はその間の記憶を何らか…

閉じ込められた部屋(3)

真尋は、机に置かれた一枚の紙を手にとった。 何の変哲もないコピー用紙のような紙に文字が印刷されている。紙を確認してみたが他に怪しいところはなく、別の文字の書き込みも見つからない。 「真実は、いつでもすぐそばにある」 声に出してその一文を読んで…

閉じ込められた部屋(2)

真尋の呟きに、誰も答えてはくれなかった。 ひどく頭が痛む。昨夜、自宅に帰った後のことを思い出そうとすると、その頭痛が邪魔をする。うまく思い出せない。ただ時間が経つにつれて、少しずつ思考がはっきりとしてくる。そして、それに伴って、自分を今取り…

閉じ込められた部屋(1)

1 佐藤真尋が眠りから目を覚ますと、自分の顔を蛍光灯の光が照らしていることにまず気づいた。 あれ、昨夜、電気消し忘れたんだっけ? そんなことを思いながら大きく伸びをする。次に気づいたのは、自分がベッドに寝ていないということだった。壁にもたれか…

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