真尋は再び、絵の中の奇妙な建物に視線を戻した。
窓枠の中の少女。そしてドアから出ていく女性。少女は感情を失った死人のような顔でその女性を見下ろしている。
この絵は何を意味しているのだろうか。必死になって考えてみるのだけど、何も思いつかない。煮詰まった真尋は、絵を全体的に見てみようと思って少し体を後ろに引いた。そして再びその絵の全体を視界の中に入れる。
その時だった。
「あ・・・」
真尋の頭の中で、微かな電流が流れたかのような感覚を覚えた。
私は、この絵と似た光景を、過去に見たことがある・・・。
なぜかは分からなかったけど、はっきりとそう感じたのだ。
私は、どこでそれを見たのだろう・・・。
何度も自分に問いかける。
だけど、真尋はどうしても思い出すことができなかった。ただ、その窓枠に描かれた少女は自分なのだと思った。そしてドアから出ていく女性は、自分の母親なのだと思った。家から出ていく母親を無表情で見つめる自分。そんなシーンが自分の過去のどこかにあったのだと思った。
でも、いつそんな場面があったのだろう。
ここ最近のことではない気がする。もっと昔のできごとのはずだ。特に理由もなかったけど、真尋はそう思った。だけど肝心の記憶は、まるで濁った水の中に沈み込んでしまっているかのように、思い出すことができなかった。
私は、決して忘れてはいけないことを、忘れてしまっている・・・。
真尋の直感は、彼女にそう語りかけていた。
そのまま真尋は半ば呆然と立ち尽くしていた。どれくらい時間が経っただろうか。一分かもしれないし、一時間かもしれない。時計もない静寂に包まれた部屋の中で、時間感覚は消え失せていた。ふと、自分の右手に持つ一枚の紙に視線を落とす。その紙に印刷された、
“真実は、いつでもすぐそばにある”
という文字が真尋の目に入った。