ぽた・・・。
「え?」
真尋は、自分の頬に何かが落ちてきたような感触を感じて、小さな声を挙げた。慌てて右手でその頬を触る。そして右手を目の前に持っていき、よく見ると、何かで濡れているかのように、部屋の電灯の光を反射して鈍く光っていた。水だろうか。
ぽた・・・。
まただ。
真尋は上を見上げる。
天井の開いたパネルの奥では、薄暗い闇の中で金属製の筒状の何かがゆらゆらと浮かんでいるように見えていた。そこから落ちてきたのだろうか。真尋はその筒の真下で、右手の手のひらを上にして広げる。
ぽた・・・、ぽた・・・。
手のひらが濡れていく。
明らかにその筒の中から水がこぼれ落ちてきているようだった。
ぽた・・・、ぽた・・・、ぽたぽたぽた・・・。
その水滴は徐々に、そして明らかに増えていった。
やっぱり、あの筒状のものは“放水口”だったのか。でも、なぜそのような“放水口”がこんな天井に設けられているのか。それにそもそもなぜ、今、そこから水滴がこぼれ落ちてきているのか。
真尋は濡れた手のひらを凝視し続けていた。
それは突然だった。
いきなり、誰かが水道の蛇口を思い切り開いたかのように、その筒から水が勢いよく下にこぼれ落ちてきた。
何の準備もしていなかった真尋はその水を頭から被ってしまい、そのまま尻餅をついてしまった。一瞬自分の身に何が起きたのかわからなくて、半ばパニックになりながら這うようにして、その水流の外に逃れる。そしてそのまま、ドアが設けられている部屋の隅まで這っていった。
何なの。
何が起きたの。
部屋の隅にたどり着いた真尋は後ろを振り返る。
そこでは、大きな音を立てて、天井から大量の水がこの部屋に流れ込んでいた。
真尋は、その滝のような水流を呆然としながら見つめる。
今ここで何が起こっているのか。そしてその帰結として自分の身に何が起こるのか。その全てが理解できなかった。その先の未来を想像することができなかった。想像することが恐ろしかった。ただ直感的に、
“このままでは大変なことになる”
ということだけは感じていた。