美和は持ってきたバッグを開き、その中から一つの包みを取り出した。
昨日この病室を訪れた際に、この部屋の殺風景さがひどく気になっていた。
何か気分を変えてくれるようなものをこの部屋に置きたいと思った。ただし、真尋が入院しているN大学附属病院では生花のお見舞い品は禁止されている。先ほど面会の受付をした警備室の横にも、目立つように赤字で、
「感染症予防のため、当院では生花のお見舞い品は禁止となっております」
という表示がなされている。それを見て美和は、生花が駄目なら、何がいいだろうかと考えた。とりあえずまずは店に行ってみてそこで色々と見てみることにした。そして昨日の面会の帰りにそのまま駅前のデパートに行き、そこで店員に勧められた品物を買ってきていた。
包みを丁寧に剥がす。
包みの中から一本の瓶が出てきた。その瓶の中では、鮮やかなピンク色のバラが液体の中に浮いていた。ピンクは真尋が好きだった色だった。
それは“ハーバリウム”というインテリア用の植物標本で、ドライフラワーをガラスの小瓶に入れ、保存用の専用オイルに浸して作られている。こうすることで、花本来の瑞々しさを長期間保つことができ、しかも面倒な世話や手入れは一切不要らしい。
そのようなものに疎い美和は、デパートの店員に勧められて、世の中にはそのようなものがあるのだということを昨日初めて知った。見本の品をデパートで見て真尋の病室に置くにはちょうどいいと思い、その場で買ったのだ。
真尋が一人眠るこの病室の雰囲気を、少しでも明るいものにしたかった。
美和はそのハーバリウムを、真尋のベッドの横にあったサイドボードの上に置く。
午前中の日差しが窓を通して部屋に差し込んできていた。その日差しを受けて、ピンク色のバラは部屋に鮮やかさを添えた。
「綺麗・・・」
美和は満足してその透明な瓶を見つめた。
視線をその透明な瓶から、ベッドの上に移す。
ベッドの上では人工呼吸器をつけた真尋が眠っている。美和は右手をそっと差し出して、その真尋の頬に触れた。ひどくひんやりしている。真尋は、まるで苦痛からやっと逃れられたというかのように、穏やかな表情で眠っていた。
「ねえ・・・、真尋・・・」
囁くように言葉を重ねる。
「真尋・・・、どうしてあんなことをしたの・・・。あの日、あなたに何があったの・・・」
美和は、昨日聞いた、真尋の主治医の話を思い出していた。