創作ノート

短編小説を書いています。

閉じ込められた部屋(17)

 

スマホでブラウザを立ち上げ、検索エンジンを呼び出す。そして「失踪宣告」という四文字を入力すると、検索結果一覧がスマホに表示された。

真尋は、その一覧の一番上に出てきたページを開いた。

それは失踪宣告に関する手続きを説明するサイトだった。そしてそのサイトの冒頭に、失踪宣告の説明として、次のような記載が掲載されていた。

 

“不在者(従来の住所又は居所を去り,容易に戻る見込みのない者)につき,その生死が七年間明らかでないとき(普通失踪),又は戦争,船舶の沈没,震災などの死亡の原因となる危難に遭遇しその危難が去った後その生死が一年間明らかでないとき(危難失踪)は,家庭裁判所は,申立てにより,失踪宣告をすることができます。

失踪宣告とは,生死不明の者に対して,法律上死亡したものとみなす効果を生じさせる制度です。“

 

不在者・・・。

その生死が七年間明らかでないとき・・・。

生死不明のものに対して、法律上死亡したものとみなす・・・。

 

真尋はこれらの見慣れない言葉を心の中で呟く。

そして、それらの言葉が持つ意味を考えた。

簡単なことだった。

真尋の父は平成二十九年十一月三十日に、“法律上死亡したもの“とみなされたのだ。

平成二十九年は西暦では2017年。真尋が十三歳の年だった。

真尋が中学校に通っていた日々の中で、母は真尋が全く知らないところでこのような届出を提出していたのだ。そのような素振りを母は真尋には全く見せなかった。そのことにまず大きなショックを受けた。そして真尋に全く知られないようにそのような届出を出すということの意味を考えた。

 

なぜ、母は私には父のことを何も話そうとしないのか。

なぜ、母は私に父の失踪宣告のことを伝えなかったのか。

 

その母の行動の裏に、何か窺い知れない暗闇が隠れているような気がした。だけど真尋にはその暗闇の正体を知ることはできなかった。

真尋はその暗闇を見通すことをあきらめ、考えを進める。

 

七年間生死が明らかでない、ということは2017年に失踪宣告される七年前、つまり2010年に父はいなくなったということになる。2010年というと、真尋が六歳の年だった。まだ小学校に上がってもいない。その年に父はいなくなったのだ。

2010年に何が起こったのだろう。

真尋は、自分が六歳の時の記憶を探る。

真尋の周りで“父”という存在を見た記憶はなかった。あるいは“父”と思われるような大人の男性が母の周りや真尋の周りに存在していたという記憶すらなかった。

 

だけど、あの夜・・・。

私は何かを見た気がする・・・。

 

 

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