目の前に広がる絶望の圧倒的な深さの前に、真尋はその正体から目をそらしそうになる。逃げ出しそうになる。その絶望の正体を知ってしまったら、自分はもう元の自分のままではいられなくなるかもしれない。そのことが死ぬほど怖かった。
それでも、私はこの絶望の正体を知らなければならない・・・。
目の前の絵を見つめたまま、真尋は心の中で呟く。
そうしないと、この閉じ込められた部屋から永遠に逃れられない。一つの確信として、真尋はそれを感じた。
絵から視線を外し、あらためて自分が立っている小さな部屋に視線をぐるりと巡らせる。この部屋には、先ほどの部屋にあった机も、そしてその机の上にあった一枚の紙も存在しない。だけど、その紙に印刷されていた“真実は、いつでもすぐそばにある”という文字は、真尋の頭の中から消えることは無かった。
再び壁にかけられた一枚の絵に視線を戻す。
結局、この絵しかなかった。
先ほどの部屋にかけられた絵の裏には、ドアを開けるためのスイッチが隠されていた・・・。
なら、この絵の裏には何が隠されているのか・・・。
きっと、私を襲うこの絶望の正体が隠されているはず・・・。
真尋はゆっくりと絵に近づく。
そして先ほどの絵と同じように、その絵の下辺に両手をかけた。
両手に少し力を入れて絵を上に持ち上げると、その絵は簡単に壁から外れた。そのまま絵を抱えるようにして、絵の後ろの空間を晒していく。
そしてその絵の後ろに隠されていたものを、真尋の視線が捉えた時だった。
「あ!」
真尋は思わず短い叫び声をあげていた。
驚きのあまり、両手を絵から離してしまう。絵はがたんという大きな音を立てて床に落下した。だけど、真尋はもう絵になんか構ってはいられなかった。
絵の裏側の壁には、血のように赤いインクで次のような文字が乱暴に描き殴られていたのだ。
“全て、お前がやったんだ”
その瞬間だった。
真尋の頭の中に、ある一つの光景がまるで目の前で現実に起こっているかのように明細に、そして鮮やかに蘇っていた。
「いやああああああ!」
閉ざされた部屋に真尋の叫び声が響く。
何で・・・。
真尋は怯えたように、後ろに後ずさる。
何で、そんなことをするの・・・。
この部屋にそのとき立っていたのは、20歳の今の真尋ではなくて、6歳のあの夜の真尋だった。