それは、先ほどの部屋と同じように6畳くらいの小さな部屋だった。
そして先ほどの部屋と同じように、ドアの右側の壁に一枚の絵が掛けられていた。それ以外には何も置かれていない。机も置かれていなかったし、その上の紙も、この部屋には存在しなかった。
真尋はゆっくりと部屋の中を歩き、絵の正面に立つ。そして改めてその絵を観察した。
絵は薄暗い部屋の中を描いていた。
その部屋の隅にある窓の外には、薄暗い森と、その背後に聳える巨大な山脈が描かれている。隣の部屋に掛けられていた絵に描かれた遠景と似ている。もしかしたら、先ほどの絵に描かれていた塔のような奇妙な建物の内側を描いているのかもしれない。
その絵の中央には、薄暗い部屋に置かれたベッドとそのベッドに横たわる男の姿が描かれている。そしてそのベッドのすぐ脇に立つ少女の姿が描かれている。その少女は能面のような無表情な顔でその男をじっと見下ろしていた。
男を見下ろす・・・、少女・・・。
なぜだろう。
この絵を見ていると、真尋は心の奥底から湧き上がるような嫌悪感を、そして絶望感を感じた。
なぜ自分がそのような感情に襲われるのかが分からなかった。
だけど、心の底に澱む闇から絶望が顔をのぞかせ、真尋のことをじっと見つめているような感覚を拭い去ることはできなかった。
ふと、その絵の隅に、もう一人の人影が描かれていることに気づいた。
部屋の隅で少女と男の方に顔を向けている人影。薄暗い闇の中に浮かぶ顔は黒く塗りつぶされている。表情は全く分からない。ただ、そこには長い髪も描かれていて、それで大人の女性であることが辛うじて分かる。隣の部屋に掛けられていた絵で、奇妙な建物から外に出ようとしている女性と全く同じ描写だった。先ほどの絵でも、建物から外に出ようとした女性は逆光のため顔は黒く塗りつぶされていた。同じ人物を描いているのかもしれない。
この絵を見たことで喚起された嫌悪感、絶望感は消えることは無かった。
真尋の心を塗りつぶしていく嫌悪感。
そして真尋の心の闇から顔をのぞかせる絶望感。
それに必死に耐えるかのように真尋は自分自身を両腕で抱く。
この感情は・・・、何なの・・・。
その感情の意味が自分でも分からなかった。
自分がなぜこの絵にこんなにも嫌悪感を感じるのか、そしてこんなにも深い絶望に襲われるのかが全く分からなかった。
何でもいいので答えが欲しいと思った。
誰かに、その絶望の名前を教えて欲しかった。それでないと、もう自分が自分であることに耐えられないと思った。