彼女の部屋はワンルームでした。
玄関から入って右手側にキッチンがあり、左手側に浴室のドアが見えました。そして玄関の正面には、ちょっとした廊下の向こうに、厚手のカーテンが引かれた窓が目に入りました。
その窓の厚手のカーテンが夕方の外界とこの部屋を完全に分断していて、そのカーテンの隙間から差し込む夕陽だけがその部屋に微かな光を投げかけていました。
「真尋、中に入るね」
私は薄暗い部屋の奥に一言声をかけてから、靴を脱ぎました。
そして部屋に上がると、ゆっくりと玄関前の廊下を進みました。
薄暗い中に、彼女の部屋が徐々に見えてきました。
6畳の部屋の中央にはマットが敷かれていて、その上にローテーブルと、そのローテーブルを挟むように座椅子とテレビ台が置かれていました。そしてローテーブルの奥に、ベッドが見えました。
白を基調にした落ち着いた部屋で、几帳面な彼女らしく、全てはきっちりと整えられていました。それは以前、私が彼女の部屋を訪れた時と同じでした。
だけど、その時とは違って、そのベッドの上には一人の女性が仰向けで横たわっていたのです。
私はそっと、そのベッドの横に歩み寄りました。
真尋さんでした。
カーテンの隙間からの微かな光を受けた彼女の顔は、ひどく穏やかな表情をして目を瞑っていました。その姿を見て、私は拍子抜けしました。
“何だ、眠っていたのか”
彼女の様子を見て、私はそう思ったのです。
私は穏やかに眠っている彼女を起こすのも気の毒だと思い、部屋を去ろうかと思いました。実際に体を反転させて、玄関に戻ろうとしました。
その時、ベッドの横に置かれていたローテーブルの上の、あるものが目に入ったのです。
部屋は薄暗くてはっきりとは見えなかったので、私は始めは、それが何なのか分かりませんでした。だけど、私の足はそこで一歩も動かすことができずに、凍りついていました。
それは開け放たれたままの空の薬ケースと、半分くらい水の入ったコップでした。
以前、彼女から、精神科に通っていて睡眠薬を処方してもらっているということは聞いていました。飲み忘れることがないように、薬は分別して薬ケースに全て入れるようにしている。そうも言っていました。一週間前に彼女の部屋を訪れた際にも部屋の隅に置かれていた薬ケースが目に入ったのですが、その時の薬ケースは薬で一杯でした。
その薬ケースが空になっていて、テーブルの上に置きっぱなしになっている。
それが何を意味するのか。
私は想像するのも怖かった。
ただ、何か大変なことがこの部屋で起こっている。
そのことだけは分かりました。
私はベッドに向き直りました。
「真尋?」
私の声に、彼女は全く反応しませんでした。
「ねえ、真尋・・・。寝ているだけだよね?」
肩に手をかけて体を揺すってみました。すると、ベッドの上に置かれていた彼女の右手は、力無くだらりとベッドの下に垂れ下がりました。
もうこれ以上私は、私自身を騙すことはできなかったのです。
私は震える手でポケットから自分のスマホを取り出し、119番に電話をかけました。