創作ノート

短編小説を書いています。

閉じ込められた部屋(13)

 

真尋はその場で住民票に記載されている自分の本籍地を確認する。

そこには、東京都K区の、真尋が一度も聞いたことのない住所が書かれていた。

そのような住所をかつて母の口から聞いた記憶は全くなかったし、自分の身の回りの書類などにそのような住所が書かれているのを一度も目にしたこともなかった。自分とその東京都K区にはどのような関係があるのか、そして母とその場所とどのような関係があるのか、真尋には全く心当たりがなかった。

真尋は住民票を小さく折りたたんで、鞄の一番下に差し込む。そして多くの人が座っている区役所の待合室を通り抜けるようにして外に出た。

 

家に向かう電車の中で、

“どのようにこの東京都K区に戸籍謄本を取りに行こう”

と考えていた。

郵送で家に送ってもらうサービスもあるようだった。だけどそれでは母にばれる可能性がある。母はいつも仕事で家にはいなかったけど、それでも真尋がその郵便物を必ず受け取れるとは限らない。場合によっては母が仕事が休みの日にその郵便物が配達される可能性もあった。真尋は、母に自分が父親のことを調べていることを知られるのは何としても避けたかった。

そうなると、戸籍謄本をもらうために真尋自身がK区の区役所に出向く必要があった。

真尋が済む埼玉県S市からは東京なので行けないこともないのだけど、さすがに学校帰りに寄るというのも難しい。ただ、区役所によっては土曜日や日曜日に窓口が設けられることもあるはず。それであれば、休日に何かしらの理由をつけて外出すれば母もそれほど怪しむこともないだろう。そう思い立って、真尋はスマホでK区のHPにアクセスして窓口が開かれる日時を確認する。

そのHPには、確かに土曜日や日曜日に窓口が設けられる記載はあったのだけど、それは住民票の写しを交付してもらうなどの取り扱い業務が限定されており、残念ながら戸籍謄本の交付は土曜日や日曜日にはやっていなかった。そうなると、何とかして平日にその区役所に行かなければならなかった。

 

真尋はその後、数週間は何事もなかったように過ごした。

家ではいつものように母と息の詰まるような時間をやり過ごし、そして学校ではいつものように空虚な時間をやり過ごしていた。ただ、じっと平日に時間が空く機会を待ち続けた。

その日は突然やってきた。

真尋の通う高校が教育改革のモデル校として選ばれることになり、教育改革関連のイベントが開催されることになったのだ。そのイベント開催に伴い、次の火曜日の午後が急遽休校となることになった。

真尋は、この日しかないと思った。

母には学校が午後休校になることは一言も告げず、その当日、住民票をとりに行った日と同じように保険証をこっそりと家から持ち出し、学校に登校した。

 

 

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