真尋はドアノブを握り、自分の体を引っ張り上げるようにして何とか立ち上がる。
服が水を含んでいて鉛のように重かった。その間も、天井から流れ落ちる水からは目を離すことはできなかった。その“放水口”から流れ落ちる水の勢いは、弱まることを知らなかった。
真尋は、必死になって今の状況を頭の中で整理しようとする。
天井のパネルの一つが突然開き、その奥に隠されていた“放水口”から突然水が放水されている。現象としては単純だった。だけどその現象の裏に隠されている意味を理解することができなかった。なぜこのような状況の中に自分がいるのか。その答えの引っ掛かりすら見つけ出すことができなかった。真尋はただ黙って、その水の流れを見つめることしかできなかった。
一分くらい経っただろうか、真尋は自分の足元に視線を落とす。
自分の足首がすでに水の中に埋まっていた。
水位が、上がってきている・・・。
天井から流れ落ちている水は確実にこの部屋に溜まっていっている。
部屋の外に流れ出るということはない。あるとしても、それ以上に天井からの放水量が多いのだ。このままだと、この部屋を水が完全に満たしてしまうのも時間の問題だった。一分ほどで自分の足首くらいの高さまで水位が上がってきている。背の高さまで水位が上がるのは、一時間もかからない。
そうなると真尋はどうなってしまうのか。
考えるまでもなかった。
真尋はその事実を認識した途端、発狂しそうなほどの強い恐怖を覚えた。
いや・・・。
いやだ・・・。
何とかしないと・・・。
何か、行動を起こさないと・・・。
真尋は、それまで背中をつけていたドアに向き直り、ドアノブを強く握った。そして無理やりそのドアノブを回転させようとする。だけど、どんなに力をかけてもそのドアノブは全く回る気配を見せなかった。
ドアノブを回すことを諦め、今度は右手を強く握り、目の前のドアをドンドンと叩く。
「誰か!」
何度も叩いた。
「誰か! お願いだから、私をここから出して!」
何度も何度も何度も叩いた。
「お願いだから、私を助けて! お願いだから!」
どのくらい叩き続けただろうか。ドアを叩き続けることに疲れ、真尋は右手を止める。
じっと耳を澄ましてみたのだけど、真尋の耳には、天井から流れ落ちる水の音しか聞こえてはこなかった。
駄目だ・・・。
真尋は後ろを振り返る。
水は変わらず流れ落ち続けていた。