創作ノート

短編小説を書いています。

閉じ込められた部屋(5)

 

真尋はドアに耳をつける。

ドアの向こう側から、小さな音でもいいので何かしらの物音がしないかと聞き耳を立てる。だけど、そのドアを介してどんな音も聞こえては来なかった。ここまで無音だということは、かなりの防音対応が施されているのかもしれない。外の音が自分に聞こえないようにするためなのか、あるいは、自分の叫び声が外に聞こえないようにするためなのか。どちらにせよ、真尋にとって希望の持てる状況では無かった。

諦めて耳を離す。そして後ろを振り返った。

一度大声を出したせいか、逆に真尋は冷静になった。

部屋の中をあらためて観察する。外からは何の物音も聞こえない。それなら、この部屋の中に、今の自分が陥った状況を説明してくれるようなヒントを探すしか無かった。

 

まず目に入ったのは、先ほど見つけた机の上の紙。そしてその紙に印刷された“真実は、いつでもすぐそばにある”という文字。

真尋は再び机の前に向かい、その紙を右手で持ち上げた。

この紙が意味もなくこの場に置かれているわけがない。これは自分に対する何かしらのメッセージのはず。

「真実は、いつでもすぐそばにある」

もう一度声に出して読んでみる。

だけど、そのメッセージはあまりに抽象的すぎて、その意味するところが分からない。

「何なの・・・。どういう意味なの・・・」

この紙が置かれていた机は、引き出しもついていない天板だけの簡易的な机になっていて、その上にはこの紙以外のものは何も置かれていない。机も念入りに観察してみたが、まだ真新しい机なのか、人が使ったような形跡が見られなかった。

 

真尋は視線を転じる。

次に目に入ったのは、壁に掛けられた一枚の奇妙な絵だった。

奇妙な塔が描かれていて、妙に薄気味悪い絵だった。

もしかしたら、この“真実は、いつでもすぐそばにある”という文の意味は、この絵の中に何かしらのヒントが隠されているということではないだろうか。だからこの部屋にはわざわざこの絵が掛けられているのではないだろうか。

そう思い立った真尋はゆっくりとその絵に歩み寄った。

 

 

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