真尋は、机に置かれた一枚の紙を手にとった。
何の変哲もないコピー用紙のような紙に文字が印刷されている。紙を確認してみたが他に怪しいところはなく、別の文字の書き込みも見つからない。
「真実は、いつでもすぐそばにある」
声に出してその一文を読んでみる。
実際に言葉にすることによって、そこに何かの答えが見つかることを期待していた。だけど、真尋の声は閉ざされた部屋に虚しく響くだけで、何の答えも与えることもなく消えていった。
「何なの?」
紙を乱暴に机の上に戻す。そして机の前から離れて部屋の中央に立つ。
この場所はどこなのか。
なぜ自分は今、ここにいるのか。
そのヒントが他にこの部屋に隠されていないかと部屋の隅々を見渡す。だけど、他にめぼしいものはなかった。鍵のかかったドア。壁にかかった不気味な絵。机とその上に置かれた一枚の紙。そしてその紙に印刷された“真実は、いつでもすぐそばにある”という文字。真尋の目に映るのはそれくらいだった。訳が分からなかった。
真尋は部屋の中央から離れ、自分が目覚めたときにもたれかかっていた壁に同じようにもたれかかる。腕を組み、右手で自分の顎を支えるような体勢で必死になって考える。
一体、自分の身に何が起きたのか。
昨夜、自分の家に帰ったところまでの記憶はある。
そして先ほど、この見知らぬ部屋で一人目覚めた。
その間の記憶がポッカリと抜けている。
今分かっているのはそれだけ。
一つ考えつくのが、昨夜、自分の家で何かが起きたのだ、ということだった。例えば、家で誰かに襲われ誘拐されてしまったとか。その時のショックで、襲われた時の記憶を一時的に失ってしまったとか。そして真尋を誘拐した誰かが、自分をこの部屋に監禁しているとか。もしそうだとしたら、今の状況はかなり絶望的と言わざるを得なかった。だって、もはや自分には逃げる手段がないのだから。それを考えると、背筋が凍るような鋭い恐怖が真尋の心を徐々に染めていった。
部屋は防音されているのか、外からの音が全く聞こえない。あるいは、そもそもとして外部の音が存在しないような場所に監禁されているのかもしれない。その異常な静かさが、真尋を襲う恐怖を拡大させていく。
「他の可能性もあるはず・・・」
真尋は自分に言い聞かせるように、“誘拐、監禁”以外の可能性を必死になって考える。そこに思考を向けていないと、恐怖で大声を上げてしまいそうだった。