真尋はゆっくりとドアに近づく。
先ほどは全く開くことがなかったドア。そのドアに設けられた鈍く光るドアノブ。
右手を持ち上げ、そのドアノブを握る。金属製のドアノブの冷たさが真尋の手のひらを通じて、体の中に流れ込んでくる。真尋はそこで一度大きく息を吐いてから、意を決してそのドアノブを握る手に力を入れた。
先ほどは全く回ることがなかったそのドアノブは、何の抵抗もなく最後まで回転した。
開いた・・・。
そのままドアを向こう側に押し込む。
ドアはぎいい、と耳障りな音を立てて真尋の前で開かれていった。
そして初めに真尋の目に飛び込んできたのは壁だった。
どういう・・・、こと・・・。
真尋は心の中で呟く。
ドアの向こう側は、それまで真尋がいた小さな部屋と同じような小さな部屋が続いていた。
だけど、そこにはドアは一つしかなかった。
真尋が今開けたドアが一つあるだけ。つまり、この小さな二つの部屋は一つのドアでつながっているだけで、それ以外にどこにも出口は無かった。あるのは壁だけだった。
とりあえず隣の部屋に入ってみようと、真尋はそのドアの向こう側に体をゆっくりと滑り込ませていく。そして握っていたドアノブから手を離した。ドアは開いた時と同じように耳障りな音を立てて閉じていった。
完全にドアが閉まった時だった。
ガチャリ。
隣の部屋で赤いボタンを押した時と同じような音が、真尋のすぐ後ろで聞こえた。真尋は驚いて後ろを振り返る。後ろには完全に閉じられたドアがあった。
まさか・・・。
慌ててドアノブを握る。
だけどそのドアノブは、二度と回ることは無かった。
真尋は先ほどの部屋にもう戻れなくなってしまったことを知り、何か取り返しのつかないことをしてしまったような気持ちに襲われる。ただもはや手遅れだった。
だけど、先ほどの部屋に閉じ込められていた状態から状況が変わったことだけは確かだった。それが前進なのか後退なのかは分からない。それでも、
「立ち止まったまま何も変わらないより、ましだよ・・・」
自分に言い聞かせるように呟く。
そして気を取り直して部屋の中に視線を戻した。