創作ノート

短編小説を書いています。

閉じ込められた部屋(16)

 

小さく折りたたんだ状態の戸籍謄本を膝の上で丁寧に広げる。

そして真尋は戸籍謄本に目を通していく。

 

本籍地は、東京都K区となっている。そこは住民票で調べたので真尋はすでに知っていることだった。そしてその下には「氏名」として次のような名前が書かれていた。

 

佐藤健太郎

 

それが真尋の父親の名前だった。初めて見る父親の名前は、真尋には全くの他人の名前にしか見えなかった。それも当たり前だった。だって、真尋の母は、自分の父親の名前すら教えてはくれなかったのだから。

「佐藤・・・健太郎・・・」

小さな声でその名前を呟いてみる。

他人行儀の響きは、それでも変わらなかった。

真尋は、その父の欄の左側には見慣れない記載がされているのに気づく。

そこには欄外に「除籍」という二文字が記載されていたのだ。一瞬、その「除籍」が意味するところが分からなかった。だけど、その下側の身分事項の欄を見て、真尋はその二文字が意味するものを知った。

出生、婚姻と続いて、その下には「死亡」の二文字が書かれていた。そしてその「死亡」という記載の右側には次のような記載がなされていた。

 

【死亡とみなされる日】平成二十九年十一月三十日

【失踪宣告の審判確定日】平成二十九年十二月八日

【届出日】平成二十九年十二月一日

【届出人】佐藤美和

 

「これは・・・、どういうこと・・・?」

真尋は呟く。

 

“死亡とみなされる”

“失踪宣告”

見慣れない言葉が書かれている。

真尋が初めて見る言葉だった。ただ「失踪」という二文字に不気味で不吉な響きを感じた。そのまま戸籍謄本を鞄の中にしまおうと思った。そして先ほどの内容は見なかったことにしてやり過ごそうと思った。また空虚な毎日に戻ろうと思った。だけど、それ以上の強さで、真尋の中の誰かが次のような言葉を真尋に投げかけていた。

 

あなたは、このことを知らなければならない。

 

真尋は「失踪宣告」が意味するところを調べるためにポケットからスマホを取り出した。

 

 

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