エレベーターで11階に上がると、真尋さんの部屋の前に向かいました。
そして私はドアの前に立ち、ドアの横に設けられていたチャイムのボタンを押しました。
ピンポーンという音が、部屋の中で響いているのが聞こえました。
彼女がドアを開けて、
「あれ、真由美、どうしたの?」
そんな言葉とともに、私を不思議そうに見てくる姿を期待していました。ですが、インターフォンから声が聞こえてくることはなかったし、ドアの奥からは物音一つ聞こえてきませんでした。
もう一度チャイムを押しました。やはり中からは何の物音も聞こえてくることはありませんでした。
“もしかしたら、真尋は何か急用があって実家に帰っているのだろうか。だからこの部屋には誰もいないのではないのか。そして急いで家を出たから、今はスマホは電池切れで使えなくなってしまっているのではないのか”
そんな考えも、頭の片隅に過ぎりました。
だとしたらこのドアの向こうから、彼女の声が返ってこないのも当たり前でした。
もう一度押して返事が返ってこなければ、とりあえず自分の家に帰ろう。
そう思ってもう一度チャイムを押しました。
返事はありません。
私は諦めて、ドアの前を離れました。
だけど、ちょうどその時です。
“真由美・・・”
という、彼女の私を呼ぶ声が聞こえた気がしたのです。
それはただの気のせいだったのかもしれません。
私はそこで立ち止まり、ドアを振り返りました。依然としてそのドアは閉じられたままでした。だけど、私はその声が気になって気になって仕方がなかったのです。もしここで何もせずに帰ってしまうと、きっと後悔してしまう。そんな思いすら私の中には生まれていたのです。
私はドアの前に再び戻りました。今度はドアを直接ノックしながら、
「真尋。私だよ、真由美」
とドアの向こうに声をかけました。そして試しにドアノブを握って、それを回してみました。予想に反して鍵はかけられておらず、ドアノブはあっけなく回りました。
“いつも慎重で臆病な真尋にしては不用心だな”
そんな思いを押しやるようにドアに力を入れると、そのドアはキーという小さな音を立てて内側に開かれました。
私は恐る恐る頭をドアの内側に差し込みました。
カーテンが引かれているのか、ひどく薄暗い部屋でした。
「真尋?」
部屋の奥に声をかけてみたのですが、耳をすませていても中から物音一つ聞こえませんでした。
「真尋、中にいるの?」
私は体をドアの内側に差し込み、そして握っていたドアノブを手放しました。ドアは開いた時と同じように、キーという小さな音を立てて閉じていきました。