創作ノート

短編小説を書いています。

閉じ込められた部屋(55)

 

次の日、つまり、今日です。

私は朝から大学の講義がありました。真尋さんも私と一緒にその講義をとっていました。彼女は私とは違って、朝が早かった。いつも私が来る前に席についていて、私が教室に入ると、

「真由美」

と私に向かって小さく手を振ってくれました。私はそんな彼女を見て、そばに駆け寄り、そして彼女の横の席に座っていたのです。

だから今日も、彼女のその笑顔を予想して教室に入りました。だけど、私がその教室に入っても彼女の声は聞こえてきませんでした。

“あれ、おかしいな”

教室の入り口に立って、教室に視線を巡らせました。席は学生で半分くらい埋まっていたのですが、彼女の姿はありませんでした。

その時の私は、

“真尋の方が来るのが遅いのも珍しいな”

それほど重く考えずに空いている席に座りました。

ただ、授業開始の時間が迫ってきても、その教室の入り口に彼女の姿が見えることはありませんでした。

私は少し心配になりました。

前回の講義では一つの課題が出されていて、今日がそのレポートの提出日になっていました。そのレポートを提出しないと単位を取ることができない。重要なレポートでした。だから私も彼女もその課題については一週間前の前回の講義が終わってから一緒にレポートの作成を進めていたし、そのレポートについては、前日の帰りの電車の中で彼女とも話をしていました。

そのようなわけだったから、そのレポートのことを彼女が忘れているのも考えづらかったのです。

教授が教室に入ってきて、講義が始まろうとしている中、私はポケットからスマホを取り出して、彼女宛にメッセージアプリで一通のメッセージを送りました。

“今日の講義に来ていないけど、どうしたの?”

「ええと、それでは前回の続きから始めます」

マイクを通して、老齢の男性教授の声が教室内に反響すると、私はスマホをポケットに戻しました。講義が30分ほど過ぎ、私はポケットからスマホを取り出して先ほど彼女に送ったメッセージを確認しました。彼女からは返信は返ってきていなかったし、そもそもとして私が送ったメッセージも未読のままでした。

私は、

“体調でも悪い? 大丈夫?”

というもう一通のメッセージを送ってから、またスマホをポケットにしまいました。

講義の終わりに前回の課題のレポートを提出して、その講義は終わりました。

すぐにスマホを取り出してメッセージアプリを起動しました。私が送った2通のメッセージは両方とも未読のままでした。だけど、その時点の私は、まだ事態をそれほど深刻なものとは考えてはいませんでした。

“体調が悪くて寝ているのだろうか。だからスマホも見ることができないのだろうか”

そのようなことを考えていました。

念の為、今度は彼女に電話をかけてみたのですが、呼び出し音が聞こえるだけで彼女は電話には出ませんでした。しばらくすると留守番電話に切り替わったので、私は、

「もしこれを聞いたら、電話をもらってもいい?」

というメッセージを残して、電話を切りました。

 

 

にほんブログ村 小説ブログへ
にほんブログ村

小説ランキング
小説ランキング