創作ノート

短編小説を書いています。

閉じ込められた部屋(43)

 

突然開いた天井のパネルの奥に隠されていた、金属製の筒状の何か。

真尋は、過去に似たようなものを見た記憶があることに気づいた。

確か通っていた小学校の校舎の中だった。

必死になって思い出そうとする。

教室の前の廊下。

その廊下をまっすぐ行った先の突き当たり。

そこにその金属製の何かが設置されていた。その何かは、いつもは扉で隠されている。だけど、一度だけその扉が開くのを見たことがある。その上にはそれを説明するプレートが張り出されていた。そしてそのプレートには、“放水口”という文字が印刷されていた。

 

そうだ・・・、“放水口”だ・・・。

 

廊下の突き当たりに黄土色の金属製の箱が取り付けられていて、その箱の上に赤色のプレートで“放水口”と表示されていた。いつもはその蓋は閉じられて中を見ることができない。だけど一度だけ、避難訓練の際に、近くの消防署からきた消防署員がその蓋を開けて、中を見せてくれた。

「火事が起こった際は、ポンプ車のホースを校舎の前に設けられた送水口に接続します。そして建物の中では、この放水口に消防隊所有のホースを連結します」

まだ若いその消防署員は金属製の放水口を右手で示す。

「ポンプ車がその放水口に加圧給水をし、それで建物の中の消化活動を行います」

確かそのように説明してくれたはずだ。

普段は見ることのなかった金属製の放水口が真尋の目にはやけに物珍しく見えた。そのときに見た放水口と、この部屋の天井の奥に設けられている金属製の何かはそっくりだった。

なぜそのようなものがここにあるのか。

そして、なぜ突然その扉が開いたのか。

真尋はその先を想像する。

 

そして、もし、この天井に設けられているものが本当に“放水口”だったとしたら・・・。

 

真尋はその先の想像をかき消すように首を小さく横に振った。

もしこれが本当に“放水口”だったとしたら。

その先には、薄暗い想像しか浮かんではこなかった。

 

 

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