真尋は、あの夜の自分自身を思い出していた。
そして、あの夜から今の自分につながる14年間という時間を思い出していた。
あの夜の6歳の真尋は、自分の存在を理不尽に踏みにじってくるものに対して必死になって抵抗した。必死になって抗った。
そしてあの夜から今までの14年間は、その6歳の真尋の存在を自分の中から消し去ることで、何とかこの世界を生き延びようとした別の真尋がいた。そうすることで、この世界に自分が生きられる場所を作ろうとした。
どちらも同じ真尋だった。
だけど、決定的な一点で違っていた。
6歳の真尋は、自分の運命に対して戦おうとした。
だけど今の真尋は、自分の運命からただひたすら逃げようとしていた。
6歳のあの夜の自分を記憶から消すことで何とか自分を守ろうとしたのだとしても、6歳のあの夜の記憶を消すということは、6歳だった自分自身を消すということと同じだった。そしてそれは、今なぜ自分はここにいるのか、その理由すらも消してしまうということと同じだった。
確かに、6歳の自分が存在しない世界にさえいれば、あの夜のことに絶望することはなかった。だけど、その世界はどこまでいっても偽りの世界だった。自分を守るために、真尋自身が作り上げた偽物の世界でしかなかった。
その偽りの世界を囲う壁はまるでマジックミラーであるかのように、その中にいる今の真尋には鏡に映る今の自分の姿しか見えていなかった。だけど、その世界の外に立ち尽くしていた6歳の真尋には、いつだって今の真尋の姿が見えていた。
そして悲しそうな目で、いつだって今の真尋を見つめていた。
そのような14年間をただ生き続けてしまっていた。
ごめんなさい・・・。
見捨ててしまって、本当に、ごめんなさい・・・。
真尋は心の中で、6歳の自分に謝る。
自分は、そのような偽りの世界に14年間も逃げ続けていたのだ。そして自分自身を、その偽りの世界に閉じ込め続けていたのだ。
その偽りの世界の中では、周りに友達がいたとしても、そして隣に母がいたとしても、真尋はいつだって一人だった。どこまでいっても孤独だった。偽りの世界は、外に広がる本当の世界のどこにもつながってはいなかった。
その作り物の世界の中で真尋がどんなに声をあげても、その声は誰にも届かなかった。
もう、嫌だ・・・。
この偽りの世界の中で生き続けるのは嫌だ・・・。
6歳の自分を見捨てるようにして生き続けるのは嫌だ・・・。
この偽りの世界の中で、人知れず死んでいくのは、絶対に嫌だ・・・。
真尋は強い視線で、前を見つめる。
戦おう・・。
最後の最後まで戦おう・・・。
6歳だったときの私のように・・・。