創作ノート

短編小説を書いています。

閉じ込められた部屋(46)

 

何とかして、この水を止める方法は無いのか。

真尋は水の中で足を擦るようにして、一歩、一歩、その“放水口”に近づく。

そして改めて上を見上げて天井のパネルの奥を見つめた。そこに何か水を止める手段が隠されていないか、そこに望みをかける。

開いたパネルの奥の空間に設けられた金属製の“放水口”。そこから迸るように流れ落ちる水の飛沫に隠れるように、その“放水口”の横に小さな円形のものが見えた気がした。

もしかしたら、あれはバルブなのではないのか。

それを回すことによって水を止めることができるのではないのか。

だけど、それは天井の更に奥の空間に設置されていて、どう頑張ってみても真尋の手が届く位置にはなかった。試しにジャンプしてみるが、精一杯上に伸ばした右手は天井にも届かない。そもそもとしてすでに足元まで水が溜まった状態ではそれほど高くジャンプすることもできなかった。

だけど、その“バルブ”を見つけたことで、小さな希望を見出すことができたのも事実だった。

その“バルブ”は回すことができるものなのか。そもそもとして本当に放水を止めるための“バルブ”なのか。何一つ分からない。

それは本当に小さな希望だったのだけど、それでもゼロよりはましだった。

何かその“バルブ”を回すために使える道具はこの部屋にないのか。

真尋は部屋の中央に立ち、そして必死になって周りに視線を巡らす。

だけど、その部屋に道具として使えそうなものは何一つ見当たらなかった。隣の部屋では机があったのだけど、この部屋にはそのようなものは初めから置かれていない。

そのとき、真尋の正面の壁に架けられた一枚の絵が目に入った。さきほど真尋が壁に掛け直したものだ。その絵の中の少女が、無表情でこちらを見ている。悲しいくらい無表情であり、そして恐ろしいくらい無表情だった。

 

何で、そんな目で私を見てくるの・・・?

私を憐んでいるの・・・?

それとも、私を憎んでいるの・・・?

 

真尋は強い眼差しで、その絵を見つめる。

水の中で足を引きずるようにしてその絵に近づく。

両手でその絵の両端を掴んで、絵を壁から外した。

絵の後ろの壁に描かれた、“全て、お前がやったんだ”という赤い文字を一瞥して、そのまま絵を持ってドアの前に向かった。そしてその絵を思い切り振り上げて、ドアノブに叩きつけた。絵の中央にドアノブがめり込み、キャンパスが凹む。それでも何度も何度もその絵をドアノブに叩きつけ続けた。

 

 

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