美和は、以前、真尋の口から真由美という名の大学の友人がいるという話を聞いたことがあったことを思い出した。
真尋から学校の友人の話が出ることは珍しかったので、その名前を覚えていた。
「同じバトミントンサークルに入っている子で、真由美って子がいて」
真尋は、楽しげにその真由美という子のことを話した。そのように楽しげに何かを語る真尋の姿を見たのも久しぶりだった。そのことも美和の記憶の中に“真由美”の名前を刻み込むきっかけになっていた。
「真尋と同じサークルに入っている、真由美さん?」
美和のこの言葉に、真由美は少し表情を和らげて、
「はい。そうです。真尋さんと仲良くさせてもらっています」
と言葉を返した。
真尋の大学の友人が、なぜ今ここにいるのだろう。
もう夜22時半を回った病院の待合室に人気はなく、静まり返っている。そのような待合室に、なぜ真由美がいるのか。
その美和の疑問に気づいたのか、あるいはそのような疑問をあらかじめ予想していたのか、
「実は・・・」
真由美は言いにくそうに、少し言葉を途切る。
「実は、真尋さんのために、救急車を呼んだのは、私なんです」
「え?」
「真尋さんが倒れているのを私が発見して、だから、私が救急車を呼んだんです」
「・・・真尋に、一体何が?」
真由美は目を伏せて、小さく首を横に振る。
「私にも、分かりません・・・。なぜ、このようなことになったのか・・・」
「真由美さんが真尋を発見した時のことを、私に聞かせてもらえないかしら・・・」
「・・・はい」
真由美は、真尋を発見した時のことを、ぽつり、ぽつりと語り出した。
「私は、真尋さんと同じサークルに入っていました・・・」
その声は囁くような小さいものだったけど、二人のいる待合室は怖いくらい静まり返っていて、その声は何ものにも妨げられることもなく美和に届いた。真尋を発見した時のことを母親である美和に話すのが自分の義務だと固く信じているかのように、話を続ける真由美の目の奥には不思議な輝きが混じっていた。
私は、真尋さんと同じサークルに入っていました。
バトミントンサークルです。
昨日はサークルで一緒に練習をして、夜に二人で大学を出ました。午後7時くらいで、いつもそのくらいの時間になっていたので、本当にいつもと変わらない夜でした。真尋さんの様子もいつもと変わらなかった。電車の中で、サークルでの話や、明日の大学の授業の話とか、取り止めのない話をしていました。
真尋さんの自宅のある最寄駅は、私の最寄駅よりも大学に近かったので、真尋さんは、
「じゃあ、また明日」
と笑顔で私に言ってから、電車を降りていきました。