創作ノート

短編小説を書いています。

閉じ込められた部屋(23)

 

真尋はゆっくりと絵に近づく。

奇妙な絵が真尋のすぐ目の前にあった。

真尋がこの部屋に閉じ込められてからどれくらい時間が経っただろうか。その部屋には時計は置かれていなかったので、真尋は時間感覚を失っていた。正確な時間は分からない。ただ、自分が目覚めてから一時間は経っているはずだ。その時間の中で、この部屋は何度も確認したし、この奇妙な絵だって十分な時間をかけて観察もした。

ある意味では、それが盲点だったのかもしれない。

真尋がまだ調べていないところ。

それは真尋の目には見えているのに、そして見えていなかった場所だった。それは、何か別のもので隠されていた場所でもあった。

絵は額に入れられることもなく裸で壁にかけられていた。後ろで留め具のようなもので固定されているのかもしれない。

恐る恐る絵に手を伸ばす。そして両手を絵の下辺にかけた。大型のキャンバスに描かれたその絵は、真尋の両手にずしりとした重みを残した。ゆっくりと絵を上に持ち上げる。絵が留め具から外れたような感触があった。そのまま絵をゆっくりと外していった。

 

「これは・・・」

 

真尋の目に初めに映ったのは、ボタンだった。

そのボタンは、絵がかけられていた壁に設けられていた。キャンバスの裏側の凹み部分でちょうど絵で隠されるようになっていたのだ。ベージュのプラスチック製のベースの上に、上下二つのボタンが設けられている。上側が黒。下側が赤。

真尋は両手で抱えた絵を一旦床の上に置く。そして視線をそのボタンに戻した。この二つのボタンはプッシュ式のボタンのようだった。ただ、そのボタンの上にも横にも何の記載も入っていない。そもそもとして何のボタンなのかも分からない。

「何なの・・・」

真尋は無意識のうちに呟いていた。

絵に隠されていたボタン。

それが何でもないボタンである訳がなかった。何か重要なボタンであることは間違い無いと思った。だけど、このボタンの意味がどうしても分からない。そもそもとして二つある理由も分からなかった。

 

どちらかを選んで押せ、ということだろうか・・・。

 

考えてみても答えはわからない。

それなら押してみるしかない。

真尋は右手の人差し指を上側の黒いボタンの上に持っていく。そして押そうとした。だけど、そのボタンに触れる直前でその右手は止まってしまった。

 

何も考えずに黒のボタンを押しても、本当にいいのだろうか・・・。

 

いい訳がない。

真尋は直感的にそう感じた。

どちらのボタンを押すかが、真尋自身の運命を大きく左右するのではないのか。何が起こるかはわからない。だけど、選択を誤ってしまうと、とてつもない絶望的な何かが真尋の身を襲うのではないのか。

一度そのような考えにとらわれると、もう真尋の右手の人差し指は1ミリも前には進むことはできなかった。

 

 

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