創作ノート

短編小説を書いています。

閉じ込められた部屋(47)

 

手に持ったキャンパスをドアノブに叩きつけているうちに、そのキャンパスの四辺を囲うように取り付けられていた木枠が外れかかってきた。それらは釘で固定されているわけではなく、接着剤のようなもので絵に固定されていた。

真尋はドアノブに絵を叩きつけるのをやめて、その浮き上がった木枠に指をかける。そして思い切り絵から剥がした。木片は思ったよりも簡単にはがれた。右手で木片を持ってみる。それは五十センチくらいの長さをもった木片だった。

木片を取り外した絵はその場で投げ捨てた。そして再び“放水口”の下にすり足で歩み寄る。足首が完全に埋まるくらいまで水位が高くなっており、ひどく歩きづらかった。

 

”放水口”の下にたどり着くと、真尋は上を見上げて、その“放水口”を改めて確認する。

やはりその金属製の筒の横に、バルブのような円形の部材が取り付いているのがうっすらと見えた。真尋は右手に木片を握り、そのバルブに向けて慎重にその木片を持ち上げていく。“放水口”から強烈な勢いで流れ続ける水が邪魔だったが、そんなことも言っていられない。左手を目の上にかざし、顔に降りかかる水を避けるようにしながら、右手を上に持ち上げた。

木片の先端が、その“バルブ”に触れる。真尋はすでに右手を上に伸ばしきっていた。その状態で、何とかその木片の先端はぎりぎり“バルブ”に届いていた。

良かった。届いてくれた。

真尋はそこで一度息を吐く。

そして意を決して、つま先立ちをするようにして、“バルブ”が左回りで回る方向に合わせて木片を“バルブ”に強く押し付けた。

 

お願い・・・。

回って・・・。

 

心の中で必死に祈る。

だけど、木片は“バルブ”の上を簡単に滑ってしまい、“バルブ”は全く回る気配がなかった。もう一度試してみる。だけどやはり木片は“バルブ”の上で滑るだけだった。

そもそもこの“バルブ”が回れば放水が止まるのかも分からない。

だけど、そこに縋り付く以外に希望を見出すことができなかった真尋は、何度も何度も木片を“バルブ”に押し当て続けた。右手が疲れて力が入らなくなったら、今度は木片を左手に持ち替えてまた“バルブ”に押し当てる。それを際限なく続けた。

どのくらい時間が経っただろうか。二十分はやっていたかもしれない。

もう右手も左手も疲れ切っており、力が入らなかった。

 

駄目だ・・・。

回らない・・・。

 

真尋は右手に持った木片を下に下ろす。

そして虚な目でその“放水口”と“バルブ”を見上げた。

 

どうして回ってくれないの・・・?

もう、私は諦めるしかないの・・・?

誰かがこの水を止めてくれることを、祈ることしかできないの・・・?

 

様々な思いが胸の内側から湧き出してくる。

水位はすでに、真尋の腰の高さまで上がってきていた。

 

 

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