創作ノート

短編小説を書いています。

閉じ込められた部屋(14)

 

東京都K区の区役所は第一庁舎から第五庁舎まで、五つの庁舎に別れていた。

調べてみると、真尋の目的とする戸籍謄本は第二庁舎の「戸籍住民課」が窓口になるらしい。戸籍住民課の窓口は、第二庁舎の二階に設けられているとのことだった。

区役所の最寄駅であるO駅に着いたのは午後三時を回っていた。

その時間であればまだ学校も終わっていないのか、学生服姿も駅の構内にはまばらにしか見えない。真尋はO駅前に広がるA公園を通り抜け、その第二庁舎に向かった。通りを歩いているとすぐに「K区役所」という大きな表示を掲げたビルが見えてきたので、道に迷うということもなかった。

建物の入り口から中に入り、階段で二階に向かう。建物は年季が入っており、中はどこか薄暗かった。

 

窓口で申請用書類をもらって、記載スペースのボールペンを借りてその書類に必要事項を記載していく。証明書の必要書類欄には、「戸籍全部事項証明書(戸籍謄本)」にチェックを入れた。

真尋は書き上げた書類を持って、

「戸籍謄本をお願いします」

と窓口の40歳くらいの女性職員に手渡した。

「戸籍謄本ですね」

女性職員は、真尋が手渡した書類をざっと確認していき、そして

「身分証明書の提示をお願いします」

と真尋に言葉をかけた。

「保険証でも大丈夫ですか」

「保険証の場合は、写真が載っている別の本人確認書類が必要になります」

女性は事務的な口調で真尋に告げる。

「写真・・・、ですか」

「はい、たとえば学生さんであれば学生手帳でも大丈夫です」

「ああ、なるほど」

真尋は鞄の奥から学生手帳を取り出して、その女性職員に渡した。

「それでは、少々お待ちください」

彼女は真尋にそのような言葉を残して、奥に消えていった。

真尋は待合用のソファに座り、戸籍謄本が出来上がるのを待った。目の前の窓口では手続きをする住民が職員相手に何か話している。その後ろ姿をぼんやりと見つめながら、ただ、真尋はこれから手に入れることになる戸籍謄本のことを考えていた。

 

戸籍謄本の「父」の欄にはなんて書いてあるのだろう。

私は自分の父親のことを知っても本当にいいのだろうか。

私は自分が知ってはいけないことを知ろうとしているのではないのだろうか。

 

そのような考えが、真尋の頭の中をずっとぐるぐると回転し続けていた。

 

 

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