創作ノート

短編小説を書いています。

閉じ込められた部屋(4)

 

他の可能性……。

例えば、真尋の記憶にある“昨日”、親友の真由美と一緒に大学から帰ってきた“昨日”が、実は昨日のことではないということはないのか。

自分の記憶にある“昨日”と今との間には一年以上の時間の隔たりがあって、自分はその間の記憶を何らかの理由で無くしただけではないのか。

だけど、もしそうだとしたら、自分の記憶にある“昨日”着ていた服装と、今の自分の服装が全く同じ点に矛盾があった。それにそもそもとして、どのようなことが自分の身に起きれば、今のような状況になり得るのか。自分に納得させるだけの説明を見つけることができなかった。

真尋は首を振る。

「駄目だ……」

そんな理由では自分を納得させられない。

真尋の目の前に“誘拐、監禁”という言葉が現実なものとして現れる。全く理解できない今の自分の状況に、気が狂いそうなくらいの恐怖を感じた。

 

真尋は立ち上がり、ドアに向かう。

そして見境もなくドアを何度も叩いた。

「誰か! 誰かいないの!」

何度も何度もドアを叩く。もし本当に自分が誘拐されているのだとしたら、ドアを叩くという行為自体が何か不吉な結果をもたらすのかもしれない。だけどもはやそんな冷静な思考はできなくなっていた。

「誰か! お願いだから、誰か答えてよ!」

真尋はドアを叩き続ける。だけど、そのドアの向こうからは何の反応も返っては来なかった。

「私を誘拐した犯人でもいいから何か答えてよ!」

たとえ自分を誘拐した犯人だったとしても何かしらの反応が欲しかった。自分自身全く理解できない曖昧な状況に居続けるということが単純に恐ろしかった。

 

 

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